職場に通勤する途中で交通事故に遭ったら、労災保険を使ったほうがいいのでしょうか。そもそも、労災保険とはどのような保険なのか、詳しく知らない人もいるでしょう。ここでは労災保険の利用条件について解説し、通勤中の交通事故で労災保険を使うメリットや、デメリットをご紹介します。
労災保険の活用
労災保険とは、「労働者災害補償保険」の略で、通勤途中や仕事中に負傷したり、病気になった際に使える保険です。労災保険は、労働者を雇用する事業主が、原則として加入している保険です。従業員が1人でもいれば、加入しなければならない保険で、通勤途中や仕事中の災害であれば、正社員でもアルバイトでも給付を受けられます。労災保険が適用されれば、診察、医薬品や手術を含む治療全般、入院などの費用について、給付を受けることが可能です。また、怪我が原因で出勤できなくなった場合は、休業4日目から給付基礎日額の6割が支給されます。
さらに、後遺症が残ったら、一定額の年金や一時金が支給され、万が一死亡した場合は、遺族に対して一定額の年金や一時金が支給されるのです。このように、労災保険は働く人のための保険ですが、事業主にとっても大きなメリットがあります。業務上の災害によって、従業員が負傷したり病気になったり死亡した場合、事業主は補償することが義務づけられています。この補償は「無過失補償」といって、会社の過失の有無に関係なく補償の義務があります。
場合によっては、補償額が莫大な金額になるケースもあるでしょう。そこで、従業員に対する補償を、事業主に代わって行うのが労災保険なのです。つまり、労災保険があることによって助かるのは、従業員だけではないのです。通常、保険に加入するのは補償を受ける人ですが、労災保険は万が一の場合に、事業主の負担を減らすための保険でもあるので、通常の保険と違って事業主が加入します。労災保険が使える災害には、「通勤災害」と「業務災害」があります。
通勤災害とは
会社に通勤する途中に受けた負傷や疾病、傷害や死亡した場合に支給されます。この場合の「通勤」は、自宅から会社までの往復だけでなく、会社から別の作業場への移動も含まれます。
業務災害とは
仕事中に受けた負傷、疾病、傷害や死亡などの場合に支給されます。出張や、社用で外出中に受けた災害も、業務災害とみなされます。ただし、業務と災害の間に、因果関係があることが給付の条件です。たとえば、交通事故の場合は、社用で移動中に事故に遭った場合などに認められます。
慰謝料は認められるのか
労災で、治療費や休業補償が受けられることはわかりました。では、慰謝料は認められるのでしょうか。労災保険には慰謝料という項目はありませんが、自賠責保険や任意保険を同時に使うと、慰謝料を請求することができます。ただし、このように2つ以上の保険を併用する場合は、重複している補償を、両方とも取得することはできないので注意しましょう。労災を申請しただけでは慰謝料はもらえませんが、自賠責や任意保険を併用することによって、お互いの保険の足りない部分をカバーしあえば、慰謝料の請求も可能です。
労災保険のメリット
これまで解説しましたように、労災保険にはさまざまなメリットがあります。
治療費の負担がない
自賠責保険や任意保険の場合は、病院でかかった治療費は、被害者が一旦払ってから請求します。つまり、一時的に治療費を、自己負担することになるのです。しかし、労災保険を使えば、治療費の一時負担はありません。治療内容によっては、治療費が高額になる場合もあるので、これは大きなメリットと言えるでしょう。
支払限度額がない
自賠責保険では、支払われる金額の上限が決まっており、最大でも120万円までしか支払われません。慰謝料や治療費、休業補償まで含めて120万円ですから、それほど多くないのが実情です。しかし、労災保険には限度額がないので、高額な治療費がかかる場合でも安心です。労災保険と自賠責を併用すれば、治療費は労災保険を適用し、慰謝料などを自賠責にするといった組み合わせも、可能となります。
過失相殺がない
通勤途中に交通事故に遭った場合、加害者と被害者の過失割合によって、もらえる保険金額が左右されます。一方的に加害者に非がある場合は別として、被害者にも過失があるとされるケースでは、保険の支給額が減らされることもあります。しかし、交通事故に労災保険を適用すると、このような過失相殺はないので、被害者側に過失があったとしても、労災保険金を全額受け取ることができます。
後遺障害認定が有利
自賠責保険の後遺障害認定は、原則として書面だけで審査されます。そのため、医師が作成する診断書などの書類作成が重要となります。つまり、作成された書類の出来不出来によって、支給額が左右されるのです。しかし、労災保険の場合は、被害者本人との面談が行われるのが通常です。そこで、面談の場で、事故に遭った際の状況を詳しく説明することによって、上位の等級に認定される可能性があります。
特別支給金がもらえる
労災保険には、自賠責保険にはない特別支給金があります。たとえば、休業補償のための「休業特別支給金」などがこれに当たり、休業時に給料の2割が見舞金のような名目で支給されます。労災保険には、これ以外にも複数の特別支給金があります。特別支給金は保険給付ではないので、自賠責保険で休業補償を請求していても、労災保険で休業特別支給金をもらうことが可能です。
労災保険のデメリット
労災保険にはメリットが多いのですが、残念ながらデメリットもあります。
慰謝料はもらえない
すでにご説明しましたように、労災保険だけでは慰謝料をもらうことができません。しかし、自賠責保険と併用すれば慰謝料をもらえるので、それほど大きなデメリットとは言えないでしょう。
休業補償適用開始日の問題
労災保険の休業補償給付や休業特別支給金は、休業から4日目以降分しかもらえません。しかし、こちらも自賠責保険を併用することによって、解消できるのであまり問題ないでしょう。
労災保険を使う場合の注意点
労災保険には若干のデメリットがあるものの、それを上回る多くのメリットがあります。しかし、労災保険を使う場合には、以下のように注意すべき点もあります。まず、労災保険が適用される業務中や通勤途中の事故は、健康保険を使って治療することができません。また、緊急の場合を除いて、労災保険指定医療機関で治療を受けるようにしましょう。指定病院なら治療費の一時負担もなく、労災関連の手続きもスムーズに進められます。また、病院で治療を受ける際は、労災保険による治療であることを伝える必要があります。労災による治療には、通常の治療では必要ない書類や手続きがあるからです。
通勤途中や業務中に、不慮の事故に見舞われる可能性は誰にもあります。このような場合は、迷わず労災保険を申請することをおすすめします。労災保険を申請するには、多少手続きに手間がかかりますが、それ以外はメリットしかないので、必ず使うようにしましょう。
まとめ
職場に通勤する途中で交通事故に遭ったら、労災保険を使うことをおすすめします。労災保険とは、「労働者災害補償保険」の略で、通勤途中や仕事中に負傷した際に使える保険です。労災保険は、労働者を雇用する事業主が、原則として加入している保険で、従業員が1人でもいれば加入しなければなりません。労災保険は従業員だけにメリットがあるのではなく、従業員が負傷した場合は事業主に無過失補償の義務があるので、事業主にとっても必要な保険です。労災保険には通勤災害と業務災害があり、業務に関連する事故や病気に適用されます。労災保険には治療費の負担がなく、支払限度額や過失相殺がないといったメリットがあります。